2006-01-01から1年間の記事一覧

魔法使いのチョモチョモ

こんどは、大臣に温度をはからせます。なんと100度もありました。 「100度だ。王さまが、にえちゃうぞ。」 すると、はかせは、あせをたらしながら、言うのです。 「300度までよろしい。」 へやの中は、赤いゆげから出る熱で、熱くなりました。 「300度になっ…

コルシア書店の仲間たち「家族」

攻撃的なくせに、どこかさびしそうなところのある、好奇心でいっぱいなのに、はにかみのきつい、そんなちぐはぐなものが彼女の印象を複雑にしていた。こんな年長の私たちを、どう思っているのか、まるで、彼女はわがままな妹みたいに、高い背もたれのソファ…

コルシア書店の仲間たち「大通りの夢芝居」

イタリア語で、「おちこんでる」というのを、「まっくろだ」と表現することがある。ミケーレが、ときどき、それを使った。感情の起伏がはげしいというのか、すごくうれしいときと、すごくかなしいときが、彼のもっとも通常なふたつの状態だった。かなしいこ…

マグレブ紀行

面と非具象 それにしても、造形表現における地中海の北側の「ひとがた」のひしめきに対する、マグレブの幾何学模様の氾濫は、何というきわだった対照であろうか。イスラム世界における幾何学模様の発達を説明するのに、よく偶像崇拝の歴史ということがもちだ…

おとうと

「ほんとに姉さんやってごらんよ。いつも姉さんじみすぎるんで人にばかにされるんだよ。」 「そうかしら。じみは粋の通り過ぎってね。はでは幼いのよ。はでに飽きてからやっと粋になりたがるという順で、その粋をまた通り越して、じみに納まるんだそうだけれ…

地下室の手記

…人間は到達を好むくせに、完全に行きついてしまうのは苦手なのだ。もちろん、これは、おそろしく滑稽なことには相違ないが。要するに、人間は喜劇的にできているもので、このいっさいが、とりもなおさず、語呂合せの洒落みたいなものなのだ。しかし、それに…

波うつ土地

わたしと男は、「好み」がちがうというよりも、「なにか」がちがうのである。わたしが男との、その「なにか」のちがいを不愉快に思うよりは、おそらく男の方が不愉快さの度合いは大きいし、またさらに大きくなっていくだろうと、わたしは思っているのである…

波うつ土地

「すっごく、かわいい顔したもんね。あの、かわいい顔を見たんだもん、だからもう、どんなにスゴんでもだめだよ」と男はその後、なにかある度にいうようになった。わたしの「カワイイ顔」は、男のとった鬼の首だったのである。男によるとわたしは性交する前…

波うつ土地

男が喋らないのは、無口とかハニカミが強いとか口下手とかではなく、喋ることがないのだとわたしは意地悪く考えた。けれども、「コブシとはですねえ」などと、たいていの人が知っている程度の話をいかにもおもしろおかしいという風に喋ってくれるのに相槌を…

吉原治良『具体美術宣言』

今日の意識に於ては従来の美術は概して意味あり気な風貌を呈する偽物に見える。 中略 芸術は創造の場ではあるけれど、未だかつて精神は物資を創造したためしはない。精神は精神を創造したにすぎない。精神はあらゆる時代に芸術上の生命を産み出した。しかし…

ラム著/西川正身訳『レスター先生の学校「幼いマホメット教徒」』

…ところが、あのときは、不幸なことに、そうしなければならないことに気がつかないでしまいました。どうして、それに気がつかないで、変なことをしてしまったかといいますと、たぶんそれは、おかあさんが、ご主人にならって、わたしに話しかけてくださること…

ゲイルズバーグの春を愛す「おい、こっちをむけ!」

しかし心配することはなかったのだ。わたしや誰かが彼の本についてどう考えようと、マックス自身はすこしも気にしていないことがすぐにわかった。彼はいつか、わたしでも誰でもマックス・キンジェリーは偉大な作家であると言わざるを得なくなる日がくると信…

獄中記

生きてゐるうちに、「自己の魂を自分のものにする」人々が餘りにも少ないのは悲劇的なことである。エマスンは「如何なる人においても自らの行為ほど稀れな尊いものはない」と言つてゐる。全くその通りである。大抵の人々は他人の生活をしてゐる。彼等の思想…

獄中記

悲哀のあるところには聖地がある。いつか人々はこの意味を身にしみて悟ることであらう。それを悟らないかぎり、人生については全く何事も知ることが出來ない。××君やさういつた性質の人ならこの意味がよく分るはずだ。私が獄中から引き出され、二名の警官に…

隣のイラン人「イランの感性」

神戸の大地震があって一月ほど後のこと、「災害地へ行っていたの?」と聞かれた。若い人ならともかく、私のような年齢の者がいっても足手まといになるばかり。「行かなかった」と答えると、彼はめったに見せない失望の表情をした。 「行って、罹災した人たち…

隣のイラン人「イランの感性」

カップルという観点でとらえたら、アメリカの夫婦は日本の夫婦よりはるかに強い。たとえば結婚した男女の親友はやはりその男女の共通の親友となる。一緒に食事をする、酒をのむ、映画にいったり旅行したりするのは全部カップル単位だ。ところが日本やイラン…

パンダモニアム 国際政治のなかのエスニシティ

とはいえ、歴史の暗黒の谷間を見下ろしてみれば、社会集団において、人は憎しみの対象となるような別の集団を必要としていることがわかる。原始的な帰属意識の強さは、情緒的な団結が内面的ななんらかの「同族意識」からのみならず、なにか外敵の存在を見出…

パンダモニアム 国際政治のなかのエスニシティ

われわれの文化において最も強い願望のひとつは、人として社会的な地位を獲得しようとする志向であり、心理的な意味においては、個人のエゴや価値の尊重を認めてもらおうとすることである。もしある人物が、他と区別できるような存在でなければ、その人物は…

松田嘉子『ロトフィ・ブシュナーク日本公演のパンフレット』

そのような才能に恵まれた素晴らしい歌手の歌声を、一晩中聞いて楽しむことはサハラ(夕べ)と呼ばれた。サハラをこなし、聴衆にタラブを与えられる歌手が最高の歌手である。タラブとは、これもアラブ人がよく口にすることばで、音楽や歌によって得られる恍…

チューリップ・鬱金香 -歩みと育てた人たち-

ところで、岩崎常正が本草図譜に引用した李時珍の本草綱目の鬱金香は、チューリップとは全く関係のない植物で、現在のところ、和名も学名も科名も未詳である。岩崎常正が何を根拠にしてチューリップに鬱金香という名前をあてたのか、解説文だけでは意図はわ…

イスラムからの発想

その一例は、「ペルシア版おとぎ話のウサギとカメ」を述べるのが分かりやすい。すなわち、古代ギリシア人イソップが作者といわれるが、その確証はともかくとして、自信過剰のウサギがカメと競争して負ける寓話は世界諸国に流布している。しかし、ペルシアの…

イスラムからの発想

そして、天国に入ることを許された者は、この世の酒と違って絶対に悪酔いしない美酒や最上の食べ物、それに何度まじわろうと永遠に処女だという、不思議な天女を与えられて、至福の暮らしとなるのだ。だから、そんな楽園へ行けるなら、死も恐れずに戦うと、…

鳥のように獣のように「作家の背後にある『関係』」

ぼくの「十九歳の地図」の、かさぶただらけのマリアさまは、小林美代子さんをモデルに借りた。それで、けんかして、音信が途絶えた。それまで朝から晩まで、もしもしと彼女独特の蚊の鳴くような声で電話がかかり、彼女の一方的にしゃべりまくる小説の構想を…

ちひろのことば

大人になること 人はよく若かったときのことを、とくに女の人は娘ざかりの美しかったころのことを何にもましていい時であったように語ります。けれど私は自分をふりかえってみて、娘時代がよかったとはどうしても思えないのです。といってもなにも私が特別不…

鳥のように獣のように「映画ノート」

この大島渚という監督は悪くいえばめざわりで、良くいえば気がかりな存在だが 本文の内容は正直どうでもよく、ただひたすらこの素敵な言い回しにしびれた。 鳥のように獣のように (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者: 中上健次,井口時男 出版社/メー…

鳥のように獣のように「紀州弁」

一人の小説家に、この風土とは、何なのだろうか、と思う。すぐ喧嘩腰に物を言う。人が、右と言えば、「左」と条件反射の如く反対意見が口をついて出る。キメ言葉を吐きたくて、うずうずする。十九歳の頃から、小説を書きはじめ、同人誌「文藝首都」に原稿を…

オルコット『花物語「マウンテン・ローレルとメイドン・ヘア」』

「まあ、ある詩の句を、もぐもぐ言ってたのよ。私は、働いている時、よくそうして、自分を助けさせます。けど、大ばかに聞こえるにちがいありません」とベッキーは、なにか大きなあやまちをしたかのように、赤くなった。 「私も、してよ。目をさまして横にな…

阿修羅ガール

私も可哀想過ぎるの一歩手前だ。一歩手前だけど、ほとんど可哀相過ぎるの域だ。私は自分を憐れんじゃう。でもどんなに憐れんでも、それが全部自分でまいた種だから救いようがない。憐れむしかないけど、憐れまれたって救われない。それに誰も、別に私なんて…

パンの百科

東欧では婚礼に10センチほどのパンに塩をそえて贈るならわしがある。放牧の牛を集めるには一定の場所に塩をおくことも伝統的である。犬の飼育にうちこんでいる人は、つがう気のない犬に塩気の多いたべものをやって精子に勢いをつける。塩を運ぶ船にはねず…

オルコット作『花物語「すいれん」』

「どの花でも開いて、心を見せますよ。うまく太陽が、その上に輝けば」 「人間の花も、そうしたい」と、ミスター・フレッドがつぶやいた。そして自分の言ったことに、警告するように、急いで言い足した。「ぼくは、あの大きなすいれんを取って、君のために咲…