吉原治良『具体美術宣言』

 今日の意識に於ては従来の美術は概して意味あり気な風貌を呈する偽物に見える。

中略

 芸術は創造の場ではあるけれど、未だかつて精神は物資を創造したためしはない。精神は精神を創造したにすぎない。精神はあらゆる時代に芸術上の生命を産み出した。しかしその生命は変貌を遂げ死滅してしまう。

中略

ここに興味のあることは過去の美術品や建造物の時代の損傷や災害による破壊の姿に見られる現代的な美しさだ。これらは頽廃の美としてとりあつかわれているけれど、案外人口の粉飾のかげから本来の物資の性質が露呈しはじめた美しさではないか。廃墟が案外に温く親しみ深く我々を迎え入れ、さまざまな亀裂や剥だつの美しさをもって語りかけることは物資が本来の生命をとりかえした復讐の姿かも知れない。

以下略

いろいろな情景やそこに在る、在ったモノの姿がバーッとたくさん浮かんできてぐるぐる舞って、そしてストンと腑に落ちた。ああ、そういうことだったのか。と思った。