鳥のように獣のように「作家の背後にある『関係』」

 ぼくの「十九歳の地図」の、かさぶただらけのマリアさまは、小林美代子さんをモデルに借りた。それで、けんかして、音信が途絶えた。それまで朝から晩まで、もしもしと彼女独特の蚊の鳴くような声で電話がかかり、彼女の一方的にしゃべりまくる小説の構想をきかされ、「関係」にふんがいしはじめるのをたまりかね、「いいですか、単眼じゃなくて複眼で書くんですよ」と激励とも注文ともつかぬことをしゃべったのをおもいだす。「フクガン、そうなの」といって、また一方的に、編集者が家にまで来てくれ、ウィスキーをビールのコップいっぱいについで出すと、それを眼を白黒させてのんで、フクガンといっっていたとはなしだす。ぼくの家へくると言うので、国立の駅までむかえにいくと、顔よりもおおきい大きな帽子のようなかつらをかぶり、黒のエナメルの手さげをもって、上等のかっこうでやってきた。ぼくはそんな小林さんをむしょうに好きだった。

かさぶただらけのマリアさまにモデルがいたとは…。 『髪の花』という彼女の作品を、いつかぜひ読んでみたい。


鳥のように獣のように (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

鳥のように獣のように (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)