芝生の復讐

『スカルラッティが仇となり』 「サンノゼの一間きりのアパートでヴァイオリンの稽古をする男と住むのは、ひどい難儀なのよ」空っぽの拳銃を手渡して、彼女は警察にそういった。 リチャード ブローディガンの短編集に載っていたもの。これで全て。星新一のシ…

おれは女の子だ

おれはだれの絵をかこうかと思って、まわりをキョロキョロしていた。そしたら、川崎が、 「すばるくんの絵をかいていい?」 とおれに聞いてきた。 おれは「うーん」と、こまってしまった。川崎がおれの友だちなのは、そうなのかもしれない。けど、川崎がおれ…

おれは女の子だ

そのとき、おれは気がついた。 女の子があんまりケンカをしないのは、服がよごれるのがイヤだからだ。せっかくかわいくてきれいな服を着てても、ケンカをしたら服がめちゃくちゃになってしまうからだ。 だから、女の子はケンカしないんだ。 女の子は、ケンカ…

水の妖精 睡蓮と蓮の世界

2000年の時を経て蘇った大賀ハス 「大賀ハス」この名前は、ハスに特別な興味がなくとも、名前だけは聞いたことがある、という人が多いのではないだろうか。なにしろ、「2千年の時を経て蘇った古代のハス」である。古代のロマンは人々の心をかきたて、国内の…

水の妖精 睡蓮と蓮の世界

ハスの育成・交配の歴史 ハスの栽培は日本でも中国でも、かなり古くから行われてきた経緯もあり、また簡単に自然交雑してしまうため、厳密には品種数も多くなっている(江戸時代にすでに100種近くが確認されている)。そのため、ハスの原種がどれなのか、ま…

水の妖精 睡蓮と蓮の世界

温帯スイレンの交配の歴史 ………スイレンに東洋的なイメージを重ねる方も少なくないが、赤やピンク、そして黄色のスイレンは園芸種であり、そのほとんどが海外から入ってきたものである。しかも明治の終わり頃から入ってきたもので、意外に歴史は浅いと言える…

水の妖精 睡蓮と蓮の世界

スイレンとハスの違い ………学術的に言えば、スイレンはスイレン科スイレン属に含まれる浮葉性植物で、ハスはハス科ハス属に含まれる挺水植物である。平たく言うと、スイレンは浮き葉、つまり水面に葉を浮かべる植物で、ハスは挺水、水面から葉を立ち上がらせ…

もし地球に植物がなかったら?

花びらのあるさいしょの花は、マグノリアやモクレンの花に似ていたようです。いまから1億4千5百万年くらい前のことです。 これを読んで以来、モクレンを見るたび気持ちが古代ロマンへといざなわれるように。ちなみにマグノリアはモクレンの上位語で、モクレ…

夜空はいつでも最高密度の青色だ

月面の詩 私のこと嫌いでもいいよって言えなくちゃ、やさしいひとにはなれません。青春で奪われていく純粋のこと、忘れちゃったから青春小説が好きなひと。幸福が邪魔みたいに言える子が好きだ。人間を腐らせる。土に近づけ、花から離れる。私はきみが嫌いで…

今、世界はあぶないのか? ルールと責任 佐藤学による解説より

だれかが不利益をこうむる不公平なルールがあった場合、そのルールをつくり直すか廃止する必要があります。その責任も私たちは負っています。一つ例をあげましょう。最近、多くの公園でお年寄りのゲートボールと幼児の安全のために「サッカー禁止」のルール…

マルコとパパ ダウン症のあるむすこと ぼくのスケッチブック

はだがくろくても、しろくても、せがちいさくても、おおきくても、いまも、むかしも、かみの毛がきんいろでも、ちゃいろでも、きみがこの学校のちゅうしん。この学校の、きみがちゅうしん。 「エラディ・オムス幼稚園・小学校の校歌」より こんな校歌が歌い…

ジス・イズ・ワシントンD.C.

フォルジャー・シェイクスピア図書館の 正面には、シャイクスピアの ゆうめいな ことばが きざまれています。「まったく、 人間ってやつは なんて ばかなんでしょう」シェイクスピアの ファンなら、ワシントンにきて ここを おとずれない 人は いないでしょ…

ソア橋の難問/シャーロック・ホームズの事件簿より

… そのホームズが、目的地に近づいてきたころ、だしぬけにわたしのむかいの席に腰をおろし———— 一等の客車は、二人で貸し切りのようなものだった ———— わたしの両ひざに手を載せたかと思うと、腕白小僧のような気分でいるときの彼の癖でいたずらっぽい目つき…

とのさまと海(ばばけんいち氏のあとがきより)

… 原題は『殿様と海』。タイトルのストーリーもヘミングウェイ『老人と海』のパロディになっていてたいへん落語的です。初演は、2011年9月池袋演芸場での三遊亭白鳥三題噺の会。客席からいただいた「敬老の日」「釣り竿」「アルツハイマー」のお題をわずかの…

ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集

ばしょが、二か所あったら、それは、ひとつにならない。ぜったいに。 かこと、現在とか、みらいでも、ふたつのべつのじかんが、あったら、それは、いっしょにはならない。ぜったいに。 でも、ことばは、それを、ひとつにすることが、できる。 なにかをひとつ…

レーナ

ある日曜日、わたしはレーナにたずねたことがあった。「大好きだった人が死んだあとって、どんな気持ちがするものなの?」「ある朝、はじめて泣かないで起きることができたなって、そう思うでしょ。でも、次の朝はまた泣いてる。その次の日は、もしかしたら…

レーナ

レーナはポケットの奥にぎゅっと手をつっこんで、わたしを見て、それからまた地面に目を落とした。「だって、お母さんが出ていくの、見てたんでしょ、それでも意地悪しつづける人なんていないもん」「母さんが出てったなんて、言ってないわ。あのねえーー」…

英国の郷土菓子 お茶を楽しむ「ブリティッシュプディング」のレシピブック

■子供の上靴は黒色私の子どもが小学校に転入したとき、日本の白い上靴をもたせたところ、英国の上靴はまっ黒!? と知りました。靴屋さんへ行くとなるほど黒い上靴です。色が違うだけですが、それだけで自分の住んでいたところではない、違う国に来たんだと…

百合若大臣

■伝説になった波乱万丈の英雄物語 「百合若大臣」は日本の代表的な英雄伝説として知られています。といっても多くの伝説みたいにその地方で語り伝えられ、あるいは文献・記録などによって残されたものでなく、人気の語り物として演じられていたのが、あたか…

百合若大臣

百合若のことをおもうと、北の方は、もう じっとしておれなかった。 侍女たちをよび、百合若に へんじをおくることにした。侍女たちは、われもわれもと 手紙をかき、そのぶあついたばとともに、紫石のすずりとふで、それに おにぎりもそえた。 「さあ、一刻…

百合若大臣

しばらくして、緑丸は どこからみつけてきたのか、大きな柏の葉が 二、三まいついた板をくわえて、かえってきた。 百合若は 自分の指をかみきり、その血で、柏の葉に 歌を一首かきつけ、ていねいにたたんで 板にしっかりとむすびつけた。 「一刻もはやく、こ…

江戸のガーデニングより「朝顔」

■アッと驚く変化朝顔 ところで、現在ではアサガオのイメージといえばまず百人が百人、見慣れたラッパ型の花を思い描くに違いない。ところが江戸時代は違っていた。特に十九世紀初めに流行したいわゆる「変形朝顔」はおよそアサガオのイメージとはかけはなれ…

江戸のガーデニングより「朝顔」

■アサガオの来歴 アサガオは、日本原産の植物と思っている人が多いようだが、実は、奈良時代の末頃に遣唐使が薬種の牽牛子(けにごし)として中国から持ち帰ったのが最初と伝えられている。原産地は南アジア、ネパールなど様々な説があり、日本への渡来につ…

「江戸の園芸熱」の説明文より

三代目尾上菊五郎 三代目尾上菊五郎(天明四年〜嘉永二年、1784〜1849)は、多様な役柄を演じ分けた役者で、七代目市川団十郎と並ぶ名優である。恵まれた容姿で、養父初代尾上松助(松緑)よりゆずり受けた「天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)…

太陽の塔

その巨軀の内には夢見る乙女のような繊細な魂が封じ込められているというソポクレス級の悲劇に気づくには、さらに一年半の歳月を要した。ある日、まるで暗雲が吹き払われたかのように、一挙に真実の光が彼を照らした。そうすると、実際のところ彼はその巨体…

「江戸のスポーツと東京オリンピック」展の説明文より

打毬 だきゅう 打毬は白・赤の2組に分かれて行われる団体戦で、競技者が馬上で先端に網の付いた杖(毬杖 ぎっちょう)を操り、地面に置かれた自組の毬をすくってゴール(毬門)へと投げ入れる競技である。競技会場となる馬場は長方形に仕切られ、短辺の片側に…

まぬけなワルシャワ旅行

「ラビのレイブと魔女のクーネグンデ」 なんども負かされるうちに、クーネグンデは敵ながらあっぱれと相手に尊敬をいだかずにいられなくなった。尊敬から愛情までのへだたりは一歩しかない。そうは言ってもクーネグンデには魔女としての愛しかたがあるばかり…

世界切手まつり2019「ムーミン切手展」の説明文より

トーベヤンソンの母シグネヤンソンは画家としても知られるが、その一方フィンランド銀行印刷局にデザイナーとして28年勤務し、数多くの切手のデザインも手がけた。シグネヤンソンのデザインによる最初の切手はトゥルク市700年記念切手(1929年発行)で、最終的…

「ルーベンス展―バロックの誕生」における展示資料より

<ルーベンスと古代彫刻の模倣>ルーベンスにとって、古代彫刻の学習は、理想的な肉体美の備わった人物像を描くために不可欠な手段であった。こうした古代彫刻の学習に対するルーベンスの考え方は、彼自身の小論「彫刻の模倣について」から知られる。断片と…

波山芸術の〈原型〉誕生期 - 生命主義の時代

…前略… 波山が自身を代表する技法「葆光彩」によって、光をあらわす陶芸を試み始めた頃、五歳年上で同世代の作家・夏目漱石は『それから』(明治四十三年/1910)を発表、社会通念よりも人間の自然な感情と整理を肯定して、賛否両論を巻き起こした。いわゆる…