コルシア書店の仲間たち「大通りの夢芝居」

イタリア語で、「おちこんでる」というのを、「まっくろだ」と表現することがある。ミケーレが、ときどき、それを使った。感情の起伏がはげしいというのか、すごくうれしいときと、すごくかなしいときが、彼のもっとも通常なふたつの状態だった。かなしいことがあると、書店にやってきて、いう。ペッピーノさん、ぼく、まっくろです。ペッピーノが笑った。ミケーレ、きみが使うと、具合わるいよ。そか、あはは、と彼も笑う。

KがRについて語った「心が真っ白なんだよね、肌は真っ黒だけど」を思い出して笑った。なんてことはともかく、ミケーレの「すごくうれしいときと、すごくかなしいときが、彼のもっとも通常なふたつの状態」というのがとてもわかるような気がして少しぞっとしもした。そんなことの繰り返しだということは自分でもヤになるわけだが、それでもコントロールできないのだから、わかっていても感情が先に来てしまうのだからもうどうしようもない。できるだけ「うれしい多めで」でいく以外はもう他に方法がないというかなんというか。いったいどうしろと?みたいな。

 

コルシア書店の仲間たち (文春文庫)

コルシア書店の仲間たち (文春文庫)