2008-01-01から1年間の記事一覧

娘に語る祖国

みな子よ、パパはおまえが、のびのびと育ってくれることを願ってますが、ただ、人の傷みや哀しさのわかる人になってもらいたいと思っています。傷つく女になってもらいたいと思っています。実際おまえの傷ついている姿を見たら、パパは狂おしいほどつらいで…

長崎オランダ村

「…あと、食の細かですもんねえ、アイスクリームが好きで、それもハゲンダッツの、ハニーヴァニラが好きみたいで、なんかいくらきつう言うても、たとえその日すき焼きでもですよ、御飯食べんでアイスクリーム二個食べておごちそうさますることもあるんです、…

オランダ紀行

「―この裏に」 というのは、ペリカン通りのことである。 「ユダヤ人が二万人住んでいるのですが、集中してそれだけの人数が住んでいるのは、ヨーロッパでもアントワープだけです」 <中略> ちょうど少年たちの母親年齢の女性が四、五人ならんで横断歩道をわ…

オランダ紀行

オランダ人の姓には、しばしふざけた意味のものがある。たとえば、日本の明治・大正のころ、このライデン大学に、 「石塊(ブロック)先生(1885-1929)」 という大学者がいた。ブロック先生は、有名なホイジンガの師匠で、ヨーロッパにおける近代史学の確立…

家なき子

それに、この船旅は、ぼくにとって、まったくの驚きの種だった。朝から晩まで、楽しいことばかりだった。バルブラン母さんの小屋を離れ、ビタリス親方について大道を歩いていた子どもにとって、これはどんなにか幸福な生活だった。 貧しい母さんの作ったジャ…

ムーミン谷の夏まつり

ミーサは、黒い喪服をきて、すみっこにはいこんで、ひとりでしくしくやっていました。 「ほんとに、あの子たちのことが、そんなにかなしいのかい。」 と、ホムサが同情してたずねました。 「いいえ、ちょっとだけよ。だけど、こんなにないてもいい理由がある…

ムーミン谷の夏まつり

「ミーサは、かみのスタイルを、かえたほうがいいわ。まん中でわけるのは、にあわないもの。」 と、ミムラねえさんがいいました。 「前がみが、ミーサにはないのよ。」 スノークのおじょうさんはそういって、両耳のあいだのやわらかな毛を、かきあげました。…

ムーミン谷の夏まつり

「いっしょにあそばない?」 と、スノークのおじょうさんがいいました。 「わたしがすごくきれいで、あんたがわたしをさらってしまうというあそびをしない?」 「ぼく、あそびたいのかどうか、じぶんでもよくわからないんだよ。」 と、ムーミントロールがい…

写楽 仮名の悲劇

…というのは江戸には八丁堀というのが二箇所あり、一箇所はいわゆる八丁堀であるが、もうひとつ神田八丁堀というところがあるからである。ちなみに、先ほどの『江戸文学地名辞典』で神田八丁堀を引いてみると次のようにある。 「竜閑橋(常盤橋西北)の辺か…

子どもとことば

子どもの言語水準への適合という場合、それは二つの側面からなっていることを考えておきたい。まず、育児者(訓練者)が、子どもに近い水準までおり、対等の共有関係に立って、そこで動作やことばを交し合うことである。ようやく食物に「マンマ」を使いはじ…

旅行者の朝食

著者ポフリョーブキンのハルヴァに注ぐ情熱溢れる文章を目で追いながら、わたしの中では最高だったイーラのハルヴァにもまさる美味しいハルヴァがこの世にあることを知った。 そして、ヌガーとトルコ蜜飴とハルヴァと求肥と落雁とポルボロンは血縁関係にある…

旅行者の朝食

ジョークと小咄は、ロシア人の必須教養。平均的なロシア人ならば少なくとも五百ほど、どんなに生真面目優等生タイプの人であれ、最低三百ほどの小咄の蓄えがなくては一人前扱いされない。 この説自体がすでに小咄になってるよな、というのがなかなか興味深い…

てんやわんや

私は、たぶん、花輪兵子を訪ねるであろう。しかし、大きな期待は持っていない。私の頼みとする相手は、もはや、一人も日本にいない。ただ、生来の臆病と非力の犬丸順吉個人だけである。一茎のワラのような私だが、今は潔く、敗戦国の暗い激流の中に、身を投…

宇宙百貨活劇

…とくにオセアニア諸国の鳥には個性的な種類が多く、気にいっている。アオアズマヤドリという黒い鳥が面白い。この鳥の雄は名前のとおり、地面にあずまやを作って雌を招く。そのさい、青い色の装飾品(ほかの鳥の羽根や、植物、壜のかけらや、はてはプラスチ…

人はなぜ逃げおくれるのか

一九一七年の一二月六日、午前八時すぎのことであった。フランスの弾薬輸送船モンブラン号とベルギーの輸送船イモ号が、操船ミスと相互にかわした信号の誤解によって衝突して、モンブラン号の積荷であったベンゾールが流れ出して引火した。 本当にどうでもよ…

黒いチューリップ

「おお!」と、グリフュスは、怒りで熱っぽい調子から、勝利を確実に手にしたものの示す皮肉な調子に移りながら、さらに言葉をついだ。「ああ! 無実に泣くチューリップ作りさま! ああ、おやさしい学者先生さま! あなたがあたしどもをお殺しあそばすので?…

黒いチューリップ

七世紀このかた、つぎのような警句を標語とする、気がきいて素朴な一派に彼は属していた。またその標語は一六五三年にはその信奉者のひとりによって拡大解釈されたのである。 『花を侮辱することは神を冒涜することである』 一六五三年、他派をぬきんでても…

数学物語

さてパスカルは、おとうさんから数学の勉強をとめられていました。しかし、とめられるとなおやりたくなるのが人情です。パスカルもだんだん大きくなるにつれて、数学の勉強がしたくてたまらなくなってきました。しかしおとうさんはなかなか許してくれそうも…

数学で何を学ぶか

ところで、鏡にうつしたときに、なぜ左右が反対になって、上下は反対にならないか、知っていますか。眼が横についているからだ、なんてのは嘘で、片目をつぶっても同じです。 これは、本当のところは、上下も左右も反対になってはいないのです。反対になって…

砂糖の世界史

一二世紀のビザンティン帝国の皇帝に仕えた医師も、「熱冷まし」としてバラの花の砂糖漬けを処方していますが、このバラの花の砂糖漬けは、ずっとのちまで西ヨーロッパでも、とくに結核の熱に対する解熱剤として重宝されました。もっとも、バラの花に限らず…

砂糖の世界史

砂糖プランテーションは、砂糖きびの植え付けや刈り入れに集団労働を必要とし、また取り入れや、取り入れた砂糖きびの運搬を、できるだけ短時間で済ます必要から、そこでは遅刻などせず、時間を正確に守って働く集団が必要でした。集団で働くことも、時間を…