ゲイルズバーグの春を愛す「おい、こっちをむけ!」

 しかし心配することはなかったのだ。わたしや誰かが彼の本についてどう考えようと、マックス自身はすこしも気にしていないことがすぐにわかった。彼はいつか、わたしでも誰でもマックス・キンジェリーは偉大な作家であると言わざるを得なくなる日がくると信じていたのだ。今は、この町でさえ彼が作家であるのを、知っているものは少ないが、それはそれでいい。知らせるつもりもない。いつか、ミル・ヴァレーの人ばかりか、遠く離れた辺ぴな村の人たちすら、マックスが現代の、いや古今を通じて最大の作家の一人であることを知る日がくる、と考えていたのである。マックスは自分の口からはそんなことは一言もいわなかったが、彼がそう信じており、しかもうぬぼれではないと思っていたことは、やがてわかった。彼はそう思いこんでいたのであり?それは正しいかも知れないのだ。どれだけ多くのシェークスピアが夭逝し、どれだけの若き天才がつまらない事故や病気、さらには戦争で失われてきたことか、誰にもわかりはしないからだ。

うん、誰にもわからない。神様だってきっと知らない。


ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)

ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)