2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

向い風

その時、がらっと入口の硝子戸が外からあいて、 「おっ母さん、今日は。」 「どなただっけね?」 「俺だよ。忘れたのかい、おっ母さんは。」 男はずかり土間にふみ込んだ。しかしいくには、その茶色の眼鏡にも、口許のひげにも、そして男にしては白過ぎるよ…

新版 放浪記

明日から牛屋の女中だなんて悲しい。牛殺しがいっぱいやって来る。地獄の鍋に煮てやる役はさしずめ鬼娘。ああ味気ない人生でございます。 おおおお「牛殺し!」 放浪記 (新潮文庫) 作者: 林芙美子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1979/10/02 メディア: 文…

新版 放浪記

「どんなひとの詩を読みましたか?」 「はい、ハイネを読みました。ホイットマンも読みました」 高級な詩を読むと云う事を、云っておかないと悪いような気がした。だけど、本当はハイネもホイットマンも私のこころからは千万里も遠いひとだ。 「プウシュキン…

新版 放浪記

この料理人は、もう四十位だろうけれど、私と同じ位の背の高さなのでとてもおかしい。私を自分の部屋に案内してくれた。カーテンを引くと押入のような寝室がある。その料理人は、カーネエションミルクをポンポン開けて私に色んなお菓子をこしらえてくれた。 …

新版 放浪記

(九月×日) 今日もまたあの雲だ。 むくむくと湧き上る雲の流れを私は昼の蚊帳の中から眺めていた。今日こそ十二社に歩いて行こう ― そうしてお父さんやお母さんの様子を見てこなくちゃあ……私は隣の信玄袋に凭れている大学生に声を掛けた。 「新宿まで行くん…

新版 放浪記

外にラッパ長屋と云って、一棟に十家族も住んでいる鮮人長屋もあった。アンペラの畳の上には玉葱をむいたような子供達が、裸で重なりあって遊んでいた。 女一代記みたいなのは苦手なんだよなー(だったらヤだなぁ)、とかすかに危惧しつつ読みはじめたのだが…

子どもを産む

さて、この山村に初めて足をふみ入れた夏の昼下がり、そのFさんにつれられて私はU子さん(明治33年=1900年生まれ)の家を訪ねた。家族は全員仕事に出ていて、U子さんは縁側で涼んでいた。「この先生がねえ、お産した時の話、聞きたいんだって。U子さん話し…

世界一強い女。

「まず正拳中段突きですね。これはお腹のみぞおちの部分、ここをスイゲツ(あとで『水月』と書くと知った)といいますが、ここは人間の急所です。ここを拳の、この部分でまっすぐに、突き通すように、全身の力を使って打ちます」 「狙う部分が上になったのが…

極真とは何か?(中村誠インタビュー)

中村:…賢い人はね、歴史の人物が残した書物を見ていろんなことを対処するらしいです。で、同じ失敗も繰り返さない。頭の悪い愚か者は経験でしか自分の過ちを反省できないんだって。僕はそっちの方なんですよ。何回も何回も身体で痛い目に遭わないとわからな…

分娩台よ、さようなら

難産になりそうな人は妊娠中からわかります。初心でお目にかかった時点で、かなり予想できます。具体的にあげれば、まず太っている人、妊娠中にたくさん体重を増やした人、身体の固い人、運動不足で体力がない人、それまでの人生で不自然な暮らしを長くして…

大山倍達とは何か?(平岡正明インタビュー)

平岡:その意味では、あの人は疲れを知らない人です。常に夢想をしてます。 山口:『武道論』で、大山館長が「ワタシは、どんなに忙しくても、必ず1時間は昼寝するよ」と言ってるんですよ。それで平岡さんが「眠るんですか?」と言ったら、「いや、考える」…