おれは女の子だ
おれはだれの絵をかこうかと思って、まわりをキョロキョロしていた。そしたら、川崎が、
「すばるくんの絵をかいていい?」
とおれに聞いてきた。
おれは「うーん」と、こまってしまった。川崎がおれの友だちなのは、そうなのかもしれない。けど、川崎がおれの絵をかいてくれるんだったら、おれも川崎の絵をかかないといけない。
でも、おれは絵をかくのが好きで、おれが絵が好きなのは、きれいなものが好きだからだ。だから、おれは、
「ダメだよ」
と言った。川崎がびっくりしたような顔で、
「なんで?」
と、おれに聞いた。
「川崎はきれいじゃないから」
と、おれが言ったら、いきなり川崎の顔がクシャクシャになった。
目がギューッとまがって、口がムーッというかたちになって、ほっぺたがピクピクうごきだした。「え?」とおれが思ってると、川崎は、
「うぇあぃああああぃええ」
と呪文みたいなヘンな言葉をとなえながら、目からポロポロと涙をあふれさせた。そして最後に、
「わーん、わーん、わーん」
と言って泣きだした。
おれはびっくりした。
おれは、なにもわるいことなんて言ってない。
おれは川崎のことを友だちだと思ってるし、川崎のことが好きだ。川崎の絵をかくのは友情かもしれない。
でも、友情はだいじだけど、絵もだいじだ。おれは友だちの川崎にウソはつきたくなかった。だから、川崎の絵をかけないわけをきちんと話した。
好きなひとに「きれいじゃない」と言われたら、そりゃー泣くよ。でも、すばるくんのことだから、そのうち川崎(ヒミコちゃん)の美しさにも気づくから大丈夫!だって川崎さんめっちゃかわいいし!と思った。また、ストレートに口にしてしまうのはなんだけど、すばるくんの「美しいものだけをかきたい!」という考え方そのものは理解できると思った。美術系の進路へ進む子にはよくいるタイプだ。