2007-01-01から1年間の記事一覧

被差別の食卓

カポイエラとは、黒人奴隷があみだした舞踏と格闘技を掛け合わしたような踊りのことだ。白人たちには踊っているように思わせておいて、実際は格闘技の練習をしていた、というのが本来のルーツだ。 現在のサルバドルでは、観光客向けのショーとして屋内外で盛…

向い風

その時、がらっと入口の硝子戸が外からあいて、 「おっ母さん、今日は。」 「どなただっけね?」 「俺だよ。忘れたのかい、おっ母さんは。」 男はずかり土間にふみ込んだ。しかしいくには、その茶色の眼鏡にも、口許のひげにも、そして男にしては白過ぎるよ…

新版 放浪記

明日から牛屋の女中だなんて悲しい。牛殺しがいっぱいやって来る。地獄の鍋に煮てやる役はさしずめ鬼娘。ああ味気ない人生でございます。 おおおお「牛殺し!」 放浪記 (新潮文庫) 作者: 林芙美子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1979/10/02 メディア: 文…

新版 放浪記

「どんなひとの詩を読みましたか?」 「はい、ハイネを読みました。ホイットマンも読みました」 高級な詩を読むと云う事を、云っておかないと悪いような気がした。だけど、本当はハイネもホイットマンも私のこころからは千万里も遠いひとだ。 「プウシュキン…

新版 放浪記

この料理人は、もう四十位だろうけれど、私と同じ位の背の高さなのでとてもおかしい。私を自分の部屋に案内してくれた。カーテンを引くと押入のような寝室がある。その料理人は、カーネエションミルクをポンポン開けて私に色んなお菓子をこしらえてくれた。 …

新版 放浪記

(九月×日) 今日もまたあの雲だ。 むくむくと湧き上る雲の流れを私は昼の蚊帳の中から眺めていた。今日こそ十二社に歩いて行こう ― そうしてお父さんやお母さんの様子を見てこなくちゃあ……私は隣の信玄袋に凭れている大学生に声を掛けた。 「新宿まで行くん…

新版 放浪記

外にラッパ長屋と云って、一棟に十家族も住んでいる鮮人長屋もあった。アンペラの畳の上には玉葱をむいたような子供達が、裸で重なりあって遊んでいた。 女一代記みたいなのは苦手なんだよなー(だったらヤだなぁ)、とかすかに危惧しつつ読みはじめたのだが…

子どもを産む

さて、この山村に初めて足をふみ入れた夏の昼下がり、そのFさんにつれられて私はU子さん(明治33年=1900年生まれ)の家を訪ねた。家族は全員仕事に出ていて、U子さんは縁側で涼んでいた。「この先生がねえ、お産した時の話、聞きたいんだって。U子さん話し…

世界一強い女。

「まず正拳中段突きですね。これはお腹のみぞおちの部分、ここをスイゲツ(あとで『水月』と書くと知った)といいますが、ここは人間の急所です。ここを拳の、この部分でまっすぐに、突き通すように、全身の力を使って打ちます」 「狙う部分が上になったのが…

極真とは何か?(中村誠インタビュー)

中村:…賢い人はね、歴史の人物が残した書物を見ていろんなことを対処するらしいです。で、同じ失敗も繰り返さない。頭の悪い愚か者は経験でしか自分の過ちを反省できないんだって。僕はそっちの方なんですよ。何回も何回も身体で痛い目に遭わないとわからな…

分娩台よ、さようなら

難産になりそうな人は妊娠中からわかります。初心でお目にかかった時点で、かなり予想できます。具体的にあげれば、まず太っている人、妊娠中にたくさん体重を増やした人、身体の固い人、運動不足で体力がない人、それまでの人生で不自然な暮らしを長くして…

大山倍達とは何か?(平岡正明インタビュー)

平岡:その意味では、あの人は疲れを知らない人です。常に夢想をしてます。 山口:『武道論』で、大山館長が「ワタシは、どんなに忙しくても、必ず1時間は昼寝するよ」と言ってるんですよ。それで平岡さんが「眠るんですか?」と言ったら、「いや、考える」…

赤ちゃんと脳科学

あくまでも私見ですが、赤ちゃんを見ていて思うのは、人間(とりわけ子ども)は幸福感を増長させる機能よりも、むしろストレスを防御しようとする機能のほうが、より強く効率的に働くしくみを備えているのではないでしょうか。 たとえば、未熟児に採血注射を…

赤ちゃんと脳科学

一九六三(昭和三八)年にヒットした曲に、『こんにちは赤ちゃん』(作詞 永六輔、作曲・編曲中村八大)があります。この曲の「初めて出会ってこれから親子になるのですよ」という内容の歌詞には、日本人が忘れかけている大切な意味があると私は考えています…

むずかしい愛(「ある読者の冒険」より)

避暑の女性はたいそう興味を示して彼の話に聞き入っていたが、時折、女性にありがちな、きまって的はずれな質問をした。 よく「質問のポイントがずれすぎ」と言われ「?」とさらに混乱してしまうのだが、それが女性としてありがちなことなのならば上等じゃな…

むずかしい愛(「ある海水浴客の冒険」より)

そのときイゾッタ夫人は女性というものがどれほど孤独な存在であるか悟った。同性のあいだで連帯感が自発的な善意のあらわれとして生じることが、(たぶん連れの男性との緊密な同盟によって分断されるせいなのだろう)どれほど稀なことか。助けを求められる…

林芙美子の思い出/林 福江

叔母とは最初、私が小学校3年から6年までの間、一緒に暮らしました。そうですね、覚えているのは、遠足の前の日、円タクを呼んで伊勢丹デパートにお菓子を買いに連れてってくれたことでしょうか。ウィスキー・ボンボンやジェリー・ビーンズとか3~4種類買っ…

林芙美子記念館にあった来訪者用ノートの書き込み

7/8(日) 北新宿 T.M. アニメ版「時をかける少女」のヒロインの家のモデルに なっていると聞き、やって来ました。 作品中に出てくる絵画、おそらく短い生涯で描こうにも できなかった作品だったのではと思いました。 戦時下、昔の世界が終わろうとした最中…

蛇を踏む

「よくわからないけどね、しょわなくていいものをわざわざしょうことはないでしょ」 コスガさんはそう言うが、どんなものをしょってどんなものをしょわなくていいのか、しょってみるまでは分らないような気がした。しかしコスガさんには言わなかった。 その…

白い人

私が見た「狩り込み(ラフル)」はもっとも熟慮されていたのだ。無実の市民たちは、狩り込みの日に、偶然、外出したため、偶然、その路を、その時刻に通り過ぎたため、死の犠牲者とならねばならない。偶然が彼らに死をもたらすという事実は、なににもまして…

啄木歌集

かの時に言ひそびれたる 大切の言葉は今も 胸にのこれど この日の記録として。 啄木歌集 (1967年) (角川文庫) 作者: 石川啄木 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 1967 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る

花の男 シーボルト

シーボルトは、日本の植物についての理解を深め、また日本人と接触する中で、日本では植物学と園芸が進んだ状況であることを知った。シーボルトは江戸参府に加わる以前からそのことを知っていたが、参府ではしばしばそれを目の当たりにすることができた。彼…

花の男 シーボルト

二〇〇一年に日本のレコード会社から、私たちのシーボルト、フィリップが残した「日本のメロディー」という七曲のピアノ曲が前田健治氏の演奏によって公表された。音楽を愛し、当時の上級階級の人のたしなみにふさわしいピアノ演奏を楽しんだシーボルトでは…

箱根山

「あたし? そうね、この間、映画女優の話があったんだけど…」 彼女はO撮影所のK監督が、滞在中に、父親に洩らした言葉を、やや得意になって、乙夫に語った。 すると、彼は、ひどく厳粛な顔つきになって、 「いけませんよ、お嬢さん。映画女優なんて……」 「…

自然の中の光と色

虹の色というと、七色というふうに私たちは教えられている。そうしてこの七色は、太陽光の反射や屈折でできるのだから、太陽光のスペクトル(カラー?)と同じはずだと、しばしば語られる。虹が、空気中に浮かんだ微小な水滴による太陽光の屈折からつくりださ…

トリスタンとイズー物語

婦女の怒りこそ怖るべきもの、人は心してこれに備えねばならぬ! この世のものならず愛していたひとに、いちど心がかわるならば、世にもおそろしい復讐を加えるのも女というもの! 女心は恋しやすく、憎悪の念もまたわきやすい。しかも怒りは一度くれば愛の…

トリスタンとイズー物語

「和子よ、わたしは長い間そなたに逢う日を待ちわびておりました。そしてとうとうこのような、これまでどんな女子でも抱いたことのないような、立派な子供をえました。思えばわたしは悲しみのうちに産ぶ屋にはいり、そちのためには初めてのこのお祝いもまた…

リーヌスくんのお料理教室

アフリカの人はなぜたくさん大便をするのだろう 「いいこと教えてあげようか」と、アートルが雑誌の切り抜きを持ってきた。 「アフリカの人は、西洋諸国の人と比べると、1日1人当たり5倍ものうんちをするんだって」「西洋諸国とは、ヨーロッパやアメリカ…

大山倍達、世界制覇の道

…そこで私は、局員達に、かねてから考えていた私の理屈をこう話す。 「生活はリズムだという。ケンカ(格闘)もリズムだというのが私の考えだ。たとえばウェイト・リフティング、ボディビル、相撲、柔道で鍛えたものは、決してケンカに強くはない。これは実…

大山倍達、世界制覇の道

笑わせたのが私の作戦というのは、こうである。人間、なぐられる覚悟をして丹田に力を入れていると、かなりの力で打たれてもこらえることが出来る。ところが力を抜いている場合だと、たとえそれが子供の拳であろうと、思わないショックを受けることがある。…