向い風
その時、がらっと入口の硝子戸が外からあいて、
「おっ母さん、今日は。」
「どなただっけね?」
「俺だよ。忘れたのかい、おっ母さんは。」
男はずかり土間にふみ込んだ。しかしいくには、その茶色の眼鏡にも、口許のひげにも、そして男にしては白過ぎるようなその顔色にも、さっぱり記憶がなかった。
その時、がらっと入口の硝子戸が外からあいて、
「おっ母さん、今日は。」
「どなただっけね?」
「俺だよ。忘れたのかい、おっ母さんは。」
男はずかり土間にふみ込んだ。しかしいくには、その茶色の眼鏡にも、口許のひげにも、そして男にしては白過ぎるようなその顔色にも、さっぱり記憶がなかった。