新版 放浪記

外にラッパ長屋と云って、一棟に十家族も住んでいる鮮人長屋もあった。アンペラの畳の上には玉葱をむいたような子供達が、裸で重なりあって遊んでいた。

女一代記みたいなのは苦手なんだよなー(だったらヤだなぁ)、とかすかに危惧しつつ読みはじめたのだが、開始しばらくのこの一文で、たちまち「この世界」へと引き込まれた。玉葱をむいたような子供! 玉葱をむいたような子供! 川端の「顔がねばねばする」を思い出したというか、こういう表現の仕方をするひとならきっとついていける、と確信した。

先日『おやつ泥棒』にとうとう挫折してしまい「私にはどうにもついていけない…。やっぱりミステリ読みにはなれないんだ…。」とひどくかなしくなっていた矢先だっただけに「そうだそうだ、読書にだって向き不向きがあるというだけのことじゃないか。そんなことでいちいち悩むのはもうやめよう!」と思えたのも嬉しかった。しかも最後まで「おお、これはかなり好きかも?」というその予想を裏切られることなく、作品内にちりばめられた「ことば」や「風俗」や「心情」を存分に味わうことができた。久々の小説一気読み。ひとことで言って「すこぶるおもしろかった」。第三部のラストなんて秀逸そのものだし、食わず嫌いのままにしておかなくてよかった。

でもこの散文詩のような原作を、いったいどのように映画化および舞台化するのだ? 舞台も登場人物もどんどん変わっていくし(まさに放浪だし)、考えようによっては川端の『浅草紅団』よりも難しそうだ。てゆーかこれって、けっこう『浅草紅団』と似た味わいの小説なのではないかと思う。

 

放浪記 (新潮文庫)

放浪記 (新潮文庫)