白い人

 私が見た「狩り込み(ラフル)」はもっとも熟慮されていたのだ。無実の市民たちは、狩り込みの日に、偶然、外出したため、偶然、その路を、その時刻に通り過ぎたため、死の犠牲者とならねばならない。偶然が彼らに死をもたらすという事実は、なににもまして恐怖を拡がらせる。ある生死をきめる法規則が定まっているならば、人は、自分の運命をその法律、規則に順応させて救うことができる。しかし、偶然だけには、どうにも、たちむかうことができぬ。外出すること、それは、あるいは死を意味するかも知れぬからだ。

それでも救えない、順応させることのできない法則もあるのだろうけど(それは偶然とはまた違うものなのだ)。

 

白い人・黄色い人 (新潮文庫)

白い人・黄色い人 (新潮文庫)