大山倍達、世界制覇の道

…そこで私は、局員達に、かねてから考えていた私の理屈をこう話す。

「生活はリズムだという。ケンカ(格闘)もリズムだというのが私の考えだ。たとえばウェイト・リフティング、ボディビル、相撲、柔道で鍛えたものは、決してケンカに強くはない。これは実際にいろいろな犯人逮捕を経験して諸君がよく知っているだろう。ところで、どういう人がケンカに強いか知っているか。意外なことにバレリーナだ。そしてダンサーだ。音楽が身についていて、体を動かす修練の出来ている人はケンカがうまい。つまりリズムとタイミングが最大のポイントなのだ。諸君よりはるかに小さい私が、諸君に勝てるのは、それを知っているからだよ」

 実例を見ているのだから、彼らも納得するわけだ。

 ケンカはリズム―。これはこの本の中でもしばしば新しい格闘技に出合った私が、その技のリズムに目をとめて強調しているのでおわかりだろう。そしてそのためには音楽が身についているのかどうかも、かなり大きな影響を持つ。

 そういえば日本でも古来剣豪といわれた人々の多くが、生涯に音楽を楽しんでいる実例がある。小野一刀斎は尺八の名手だったという。吉川英治先生は宮本武蔵のドラマに、しばしば琴を登場させている。それは決して偶然の所産ではなく、動きとリズム、リズムと音楽という相関関係が巧みに語られていることであろうと思う。

 古い人間だからゴーゴーとまではいかないが、私も音楽が好きで、若い一時期ダンスに通いつめたことがある。そしてその過程で、自分の空手が飛躍的な進境を見せた実例を体験しているのだ。

当時のアメリカ人を前にして「柔道や相撲」という例を挙げるのは少しわかりにくかったのではないだろうか。という気がしないでもないがそんな瑣末なことは実際どうでもよく、リズムが身体に染みついているひとの動きは本当に見事である、というのはとてもとてもよくわかる。うんうん頷きつつ「もしかしてエノケンってば最強?」と思いニヤニヤさえしてしまった。ああ、『エノケンの拳闘狂一代記』を再見したし。


大山倍達、世界制覇の道 (角川文庫)

大山倍達、世界制覇の道 (角川文庫)