箱根山
「あたし? そうね、この間、映画女優の話があったんだけど…」
彼女はO撮影所のK監督が、滞在中に、父親に洩らした言葉を、やや得意になって、乙夫に語った。
すると、彼は、ひどく厳粛な顔つきになって、
「いけませんよ、お嬢さん。映画女優なんて……」
「あら、どうして?」
「不堅実です。そして営業時間も、足刈の旅館のように、短いんです」
「だって、飯田蝶子のように、お婆さんになっても、やってるじゃないの」
「唯一の例外です。それは、彼女が、美人でなかったためです。しかし、お嬢さんは……」