家なき子

 それに、この船旅は、ぼくにとって、まったくの驚きの種だった。朝から晩まで、楽しいことばかりだった。バルブラン母さんの小屋を離れ、ビタリス親方について大道を歩いていた子どもにとって、これはどんなにか幸福な生活だった。

 貧しい母さんの作ったジャガイモのひと皿に比べて、ミリガン夫人の料理女の作ったおいしいパイ、クリーム、ケーキ、そこには、なんという違いがあったことだろう!雨に打たれ、風に吹かれ、親方のあとについて歩きつづけた旅に比べて、この船旅はなんとちがっていたことだろう! 

 これが本当に「子どもの一人称」なのだとしたらとてもいやだなぁ。素直と言えば素直なのかもしれないが…。


家なき子 (河出文庫)

家なき子 (河出文庫)