家なき子
それに、この船旅は、ぼくにとって、まったくの驚きの種だった。朝から晩まで、楽しいことばかりだった。バルブラン母さんの小屋を離れ、ビタリス親方について大道を歩いていた子どもにとって、これはどんなにか幸福な生活だった。
貧しい母さんの作ったジャガイモのひと皿に比べて、ミリガン夫人の料理女の作ったおいしいパイ、クリーム、ケーキ、そこには、なんという違いがあったことだろう!雨に打たれ、風に吹かれ、親方のあとについて歩きつづけた旅に比べて、この船旅はなんとちがっていたことだろう!
これが本当に「子どもの一人称」なのだとしたらとてもいやだなぁ。素直と言えば素直なのかもしれないが…。
- 作者: H マロ,Hector Malot,福永武彦,大久保輝臣
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1996/09/01
- メディア: 文庫
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