ムーミン谷の夏まつり
「ミーサは、かみのスタイルを、かえたほうがいいわ。まん中でわけるのは、にあわないもの。」
と、ミムラねえさんがいいました。
「前がみが、ミーサにはないのよ。」
スノークのおじょうさんはそういって、両耳のあいだのやわらかな毛を、かきあげました。そして、しっぽのふさをかるくととのえて、わた毛がせなかできちんとなっているか見ようと、からだをくねらせたのです。
「すっかり、わた毛になってるって、気持ちのいいこと?」
と、ミムラねえさんがききました。
「とっても!」
スノークのおじょうさんは、きげんよく答えて、
「ミーサ、あんた、わた毛がある?」
とききました。
ミーサは、へんじをしませんでした。
「ミーサにも、わた毛があるといいわね。」
と、ミムラねえさんがいって、まげをつくりはじめました。
「それとも、小さなまき毛が、いっぱいあればね。」
と、スノークのおじょうさんがいいました。
そのときだしぬけに、ミーサが、ゆかの上で、じだんだをふんだのです。そして、目にいっぱい涙をためて、さけびました。
「あんたたちの、古ぼけたわた毛が、なんだっていうのよ! なんでも、知ったかぶりしてさ。スノークのおじょうさんなんか、洋服もきてないじゃないの。わたしは、けっして、けっして、きものをきないでは歩かないわ。きものなしに歩くくらいなら、死んだほうがましよ!」
ミーサはわっとなきだすと、客間を横ぎって、ろうかへかけこみました。
そのあいだ、スノークのおじょうさんは、客間にすわってしずみこんでいました。
「ミーサのことなんか、気にしないこと! あの人、いつでもすぐにのぼせあがるのよ。
」 と、ミムラねえさんがいいました。
「でも、ミーサのいうとおりだわ。」
スノークのおじょうさんは、そうつぶやいて、じぶんのおなかに、目をやりました。
「わたし、洋服をきるべきね。」
「おやおや、ばかなこといわないでよ。」
と、ミムラねえさん。スノークのおじょうさんが、いいかえしました。
「あんたは、洋服をきてるくせに!」
「そう、わたしはきてるわよ。」
と、ミムラねえさんは気にかけないで、
「ねえ、ホムサ。スノークのおじょうさんは、きものがいると思う?」
とききました。
「そうね、寒いと思うんなら。」
と、ホムサがいいました。
「さむくはないわ。そうじゃなくて…。」
スノークのおじょうさんは、いいわけをしました。
ホムサがことばをつづけました。
「でなけりゃ、雨がふったときにね。しかし、それなら、レーンコートをかったほうがいいな。」
スノークのおじょうさんは、くびを横にふりました。それからしばらくぐずぐずしていましたが、やがて、
「わたし、ミーサのところへいって、なかなおりしてくるわ。」
というと、懐中電灯をもって、小さいろうかへはいっていきました。
- 作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,下村隆一
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