黒いチューリップ

「おお!」と、グリフュスは、怒りで熱っぽい調子から、勝利を確実に手にしたものの示す皮肉な調子に移りながら、さらに言葉をついだ。「ああ! 無実に泣くチューリップ作りさま! ああ、おやさしい学者先生さま! あなたがあたしどもをお殺しあそばすので? ああ! あなたが、あたしどもの血をお飲みになるんで? そりゃけっこうですな! まったく結構至極ですな! しかも、あたしどもの娘っ子と、ぐるでいらっしゃるなんて! へっへ! してみりゃ、あっしは山賊どもの巣窟、泥棒さまのお館にぶちこまれているってわけざんすか! ああ、お役所の長官さまに、あすになればさっそく逐一申しあげてこなくちゃ、オランダ七州共和国長官さまに、あすになれば、さっそく逐一申しあげてこなくっちゃ! あっしどもは法律ってものを知ってましてな。何人たりとも獄中にて反乱をくわだてる者はってやつで、へへ、刑法六条でさ。ビュイッテンホッフ広場の場の再上演といきますかな、今度こそ、とびっきりの名演技でね。そうそう、そうして、檻の中の熊みてえに、拳でも噛んでることですな。そして、あんたはな、べっぴんさん、あんたのコルネリウスさまを、せいぜいそうして目でしゃぶってることですな。おふたりの子羊三たちに言っときますがね、あんたがたは、今後はもうふたりがかりで陰謀を企むといういい気な目にはあわしてもらえませんぜ。さあ、降りるんだ、親不孝のこの尻軽娘め。じゃあ、学者先生、はいちゃい。お大事にせいぜい、はいちゃい!」

 「目でしゃぶる」という表現が『ドラえもん』における「目でピーナッツをかむ」を想起させられるなぁ、なんてことはともかく、別れの言葉?であるらしき「はいちゃい」が実に気になった。これはいったいどこの言葉なのだろうか。そもそも原書ではなんと書かれていたのだろうか。…ということで調べてみたら幼児語だった。「はい、さようなら」がなまったものであるらしい。初耳だ。恐るべきかな幼児語の深遠なる世界。