黒いチューリップ

 七世紀このかた、つぎのような警句を標語とする、気がきいて素朴な一派に彼は属していた。またその標語は一六五三年にはその信奉者のひとりによって拡大解釈されたのである。

 『花を侮辱することは神を冒涜することである』

 一六五三年、他派をぬきんでてもっとも排他的であるチューリップ一派は、つぎのような三段論法をこの前提からみちびきだした。

 『花を侮辱することは神を冒涜することである』

 『花が美しければ、それだけ、それを侮辱するのは神を冒涜することである』

 『すべての花の中でチューリップこそ一番美しい』

 『それゆえにチューリップを侮辱するのは、この上なく神を冒涜することである』

 邪悪な意図に従って以上の推論をおしすすめれば、オランダと、フランスと、ポルトガルの四、五百万のチューリップ信者たちが、―ここではセイロンと、インドの信者は話の外におくとして―チューリップ世界を法の外側におき、チューリップに冷淡な数億の人間を、背教者、異端者、まさに死に値する者として宣告することもおわかりであろう。

  『すべての花の中でチューリップこそ一番美しい』ということについては至極当然のことなので同意するが、それ以外はちょっと飛躍し過ぎだと思う。