胎児の環境としての母体 幼い生命のために

 いかに多くの劣性遺伝の遺伝病があるかはこの一つをとってみてもわかります。そして遺伝病は、代謝異常症だけではなく、骨の異常では約五〇種、皮膚の異常に約五〇種というように全身の部位にわたって、その種類はたいへんに多いのです。

 しかも、それが多くの場合、劣性遺伝ですから、家計をたどってみても、ほとんどどこにも現れていないという場合が多いのが、むしろ当り前なのです。それでも、これらの因子が現在でも人類全体という巨視的な見方をするならば、確実に伝えられているのです。

 よく「うちの家系には変な病気の遺伝はない」という言葉を聞きます。そう信じている人は、それでも構わないのですが、実は、これだけ ”劣性遺伝の遺伝病” が多い現実から考えて、そのような遺伝病の因子を、一つも持っていない人というのは、おそらく存在しないだろうと、 ”人の遺伝” を研究している現在の専門家の間では推定されています。

 その一例として、最初にあげたフェニルケトン尿症は、新生児一万~二万人に一人の割合で生れるのですが、この数字からその因子を一つ持っている人、つまりそれは劣性ですから発病はしていないのですが(健康保因者といいます)、そういう人は、八〇人に一人くらいと推定されるのです。フェニルケトン尿症が検査でわかるように、現在では、このフェニルケトン尿症の因子を一つ持っている人も同じような検査でわかるのですが、その実際の検査例からみても、この八〇人に一人くらいという数値は、かなり確実とされているのです。

 八〇人に一人!! これはおそらく一般に予想されているよりも高い数値です。それが遺伝、劣性遺伝、かくれた遺伝、の実態なのです。

…ちょっと安心する。