私は赤ちゃん

 最後に主人公の「赤ちゃん」についてですが、彼は幸福な子です。だがママが電気製品の利用で余暇が多くなるにしたがって「育児過剰」になる危険を多分にもっています。育児の本をいく冊も買って読みくらべているなどというママも確かに過剰型です。

 危険の起こらない条件を用意しておいて捨て育ちにするというのが赤ちゃんをうまく育てるコツです。

 捨て育ちにするということは、人間の悟りのようなもので、なかなかむずかしいものです。初心の親は、赤ちゃんを上手に育てようと思って熱心になりすぎて、かえって失敗します。子供を大きくしていくものは、子供をとりかこむ環境です。親もまた、この環境の一部でしかありません。環境がゆたかに子供を抱きかかえ、その中で親と子との通り路が開通しているというのが一ばん自然です。親が子供にかまいすぎると、子供に必要な自然の環境を失なわせ、異常な成長を強いることになります。

 いわゆる「育児本」とは少しおもむきが異なるとはいえ、「お産」や「赤ん坊」に関連する本を(今までは縁のなかったジャンルだけに夢中になってしまい)幾冊も読んでいる自分としてはけっこう耳が痛い。子守唄がわりに本人に向け音読したこともあったし(同調したのか異存があったのかピタリとぐずるのをやめた。不思議だった)。



私は赤ちゃん (岩波新書)

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