ファービアン

ファービアンはラブーデに電話をかけたかったが、あいにくラブーデはフランクフルトに行っていた。たとえいたとしても、ファービアンは自分が困っている話は一切しなかっただろう。ラブーデには自身の悩みがあった。ファービアンはただ彼の声が聞きたかったのだ。それ以外に何もなかった。天気の話をするだけでも友だちの間には奇蹟が起るのだった。

私にとっては、行き詰まった時こそ「どうでもいい話」をしている時間が実は大切でありがたい、それでこそ奇蹟は起る、なので、妙に合点がいく。あえてなのかナチュラルになのか、困った泣きそうなたぐいの会話の最中にも程よく馬鹿話などを織り交ぜて笑わせてくれる彼や彼女のことを思い浮かべつつ、しみじみとそう思う。まー、ひとによってはかえってだめなのかもだが、でも私はそっちのほうがいくらかでもニュートラルになれる。ファービアンが言うように、誰だってつらいのは同じなのだし。