愛の妖精(プチット・ファデット)

 今度こそ、ランドリーはほんとに気が違ってしまうんじゃないかと思った。笑うやら、わめくやら、泣くやら、もう夢中で、ファンションの両手や着物にキスした。ほっといたら、足の先までキスしたかも知れなかった。しかしその時ファデットはランドリーを抱き起して、それこそ本当の恋人同士のキスをしたので、ランドリーはもう少しで死にそうになった。なにしろファデットにキスしてもらったのはこれが初めてで、ほかの女にだってキスしてもらったことはなかったし、そこでまるで気が遠くなったように道ばたへ倒れてしまうと、その間に、ファデットはまだきまり悪そうにまっ赤な顔をしたまま自分の荷物を拾い上げて、ランドリーがついて来るのを押しとめ、必ず帰って来ると約束しながら、逃げるように行ってしまった。

ランドリー、初すぎ。

 

愛の妖精 (岩波文庫)

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