新生児

 何回も聞いた産声だが、いつごろからか、赤ん坊は何で泣くんだろう、何故泣くんだろう、泣かなくてもいいのに……と思うようになった。生れても、全然泣かなかったという子もいるようだ。全くどこにも異常なく、元気に育ったが、この子は産声もあげなかったし、泣きもしなかった。泣くようになったのは生後数時間してからだ、というような赤ん坊も話には聞く。しかしどうして泣くのだろう。「あれは苦しいから、母親の助けを求めて泣くんだ」と説明した児童心理学者もいるようだ。それなら何も、第一回の呼気から泣かなくてもいいのに、と思うのだが…。第一回の呼気で泣くということは、そのとき声帯を閉じているのだ。そのとき閉じているから声がでる。声帯を閉じているところを呼気が出て行くから声がでる。声がでるから泣くといわれる。我々おとなは空気を肺から出すとき声は出さない。静かに息を出している。それなのに新生児は、なぜ声帯を閉じて、大きな声を出して泣くのだろう。

 子宮から出てくると、外はあまりにも違う環境である。それでびっくりして泣く……それが泣く第一の理由かもしれない。しかし考えてみると、たぶん泣くことに意味があるのだと思う。泣くのは声門すなわち声帯を閉じて、息を吐き出しているのだ。声帯を閉じて呼気運動をするということは、気道内にいささか圧力がかかっているということだ。息を吐きだすときに気道内陽圧がかかると、肺胞をすみずみまでよく拡げることになり、また少しでも血液中に酸素を送り込むためにも都合がよい。新生児でなくても、呼吸困難になったりすると、声門を無意識に閉じてうめきながら呼気をする。そう考えると、新生児が第一呼気から泣くのは、泣く方が呼吸の自立に都合がいいから泣いているのだと、考えられる。もちろんその後は空腹につけ寒いにつけ、オシメが濡れたにつけ、何かにつけて泣く。しかし生れてすぐ泣くのは、それ相当の呼吸生理学的な意味があってのことだと考えたい。

なるほど。


新生児 (岩波新書 黄版 339)

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