太陽の塔

 その巨軀の内には夢見る乙女のような繊細な魂が封じ込められているというソポクレス級の悲劇に気づくには、さらに一年半の歳月を要した。ある日、まるで暗雲が吹き払われたかのように、一挙に真実の光が彼を照らした。そうすると、実際のところ彼はその巨体を持て余しているのであり、愛用のジャケットは便利だから着ているにすぎず、蓬髪は単なる癖毛であり、無精髭には愛嬌があった。そして彼の瞳は、可愛いと言っても良いほどにつぶらなのだった。

 彼はズバ抜けた膂力を持ち、やや偏っていたが、危険な男ではなかった。優しく繊細で、友情にあつく、女性をよせつけず、真面目に学業に勤しみ、恐るべき知性を秘め、万巻の書を読み、軍事・科学・歴史・コンピュータ・アニメに関する該博な知識を自在に駆使し、己の信じた道を顎を上げて歩き続け、そして世間から誤解されることの多い一人の聖人。私が生まれて以来はじめて見た、超弩級のオタクであった。

 

乙女心を持ち、優しく繊細で友情にあつく、女性をよせつけない節もあり、恐るべき知性を秘め、万巻の書を読み、該博な知識を自在に駆使し、己の信じた道を顎を上げて歩き続ける巨躯の友人、とかぶる部分が多く、つまり、たいへん魅力的で大好きな登場人物だ!と思った。脇役だけに、それほど活躍はしなかったのは残念だったけれども。

太陽の塔(新潮文庫)

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