まぬけなワルシャワ旅行

「ラビのレイブと魔女のクーネグンデ」

なんども負かされるうちに、クーネグンデは敵ながらあっぱれと相手に尊敬をいだかずにいられなくなった。尊敬から愛情までのへだたりは一歩しかない。そうは言ってもクーネグンデには魔女としての愛しかたがあるばかりだ。魔女がラビ・レイブに書いた手紙というのは、こうなのだ。
「レイブ、そなたは強さにかけては世界一の男、そしてわらわ、クーネグンデは強さにかけては世界一の女。ふたりが結婚したなら、天下はふたりの思いのまま。どんなにどえらい銀行でも荒らしまわれる、どんなに大きな造幣所でもからっぽにできる、どんなに力のある王侯貴族もふるえあがろうというもの」
するとラビ・レイブの返事にはー
「銀行強盗も造幣所荒らしと、わしはごめんだ。神に仕えるわしが悪魔に仕えてたまるものか。へびといっしょに暮らすほうが、おまえとよりはましだわい」

この返事を受けとるとクーネグンデの愛の思いは憎しみと混ぜこぜになった。腕ずくでとラビと結婚してやる、そのうえでこの恨みきっと晴らさでおくものか、とグーネグンデは心に誓った。

 

愛憎入り混じるってこんなことなんだろうな、ここまでいってこそのものなんだろうなと思った。ともあれ、この『まぬけなワルシャワ旅行』は、どの話もロシアの奇天烈が炸裂していてたいへんおもしろかった。喫茶店の書棚にあったものをなんとなく読み始めたらやめられなくなり予定より長居したあげく、結局そのまま家に持ち帰ってしまった(気に入った本は買い取ることができる店だった)

まぬけなワルシャワ旅行 (岩波少年文庫)

まぬけなワルシャワ旅行 (岩波少年文庫)