「ルーベンス展―バロックの誕生」における展示資料より

ルーベンスと古代彫刻の模倣>

ルーベンスにとって、古代彫刻の学習は、理想的な肉体美の備わった人物像を描くために不可欠な手段であった。こうした古代彫刻の学習に対するルーベンスの考え方は、彼自身の小論「彫刻の模倣について」から知られる。断片として伝わるこの小論の中で、彼は、自分たちの時代の人間は、古代人より劣った存在となってしまったため、古代のような芸術的創造を行えないとしている。さらに古代から長い年月を経る中で生じた人間の身体自体の衰えや運動不足により、古代人に比べ、自分たちの肉体が劣っていることを指摘する。そしてそのうえで、よく鍛錬された理想的な身体表現を習得するためには、古代彫刻を学ぶことが欠かせないと主張するのである。

一方、ルーベンスは、古代彫刻の模倣がはらむ危険性にも気づいていた。小論の中で、彼は古代彫刻の模倣を行なう時には、石と肉の質感の違いに十分に注意せねばならないと説いている。こうした主張がルーベンスによって忠実に実践されたことは、残された多くの素描から確かめられる。すなわち、それらにおいては、原則的にチョークやクレヨンが用いられ、その柔らかな線の効果を生かして、血の通う生身の肉体が描きとられているのである。

*展示されていた説明パネルより

ルーベンスが現代にタイムスリップして、鍛え上げた肉体を誇るマッチョな人びとを見たら興奮するだろうなぁと思った。時代はめぐるというかなんというか。とにかく、ある意味、安心してくれるんじゃないかなと思う。