世界の食文化(18 )ドイツ

 穀物はパンにして食べるだけではない。粉を麺に加工して、つまり広い意味でのパスタにして食べることも多い。パスタはイタリア料理の専売特許ではなく、ドイツ料理の中にも定着している。ただし地域差が大きく、南ドイツでは大いに食されるが北ドイツではあまり一般的な食材ではない。麺類の」消費の約半分は、バーデン・ヴュルテンベルク州バイエルン州、つまりマイン川以南の南ドイツが占めている。

 とくに有名なものはシュペッツレである。これは、シュヴァーベン地方の名物で、小麦粉と卵から作る平べったい麺である。小麦粉に卵、塩、水を加えよくかき混ぜて生地を作る。この生地を薄く伸ばしてナイフで細く切り(五ミリメートル幅程度)、熱湯でゆでたあと水分を切って、バターを加えたり軽くいためて出すことが多い。卵を多く使うので通常のパスタより柔らかく水分の多い麺となり、いわゆるコシの強さはない。材料からみればパンケーキに近いが、生地を細かく切ってゆでるという製法からするとパスタとみなしてよかろう。このシュペッツレはそのまま肉料理などの添え物にすることもあるが、少し手を加えて、主食として食べることもある。

 南ドイツでは、このシュペッツレ以外にも、小麦粉で作ったさまざまなパスタ類が食べられている。たとえばフレードレは、シュペッッツレによく似た平たい麺状のパンケーキ風の食物で、ブイヨンスープに入れて食べる。マウルタッシェンという料理は、小さな四角形をしたドイツ版ラビオリのようなもの。シュプフヌーデルというのもあるが、こちらはジャガイモのマッシュに小麦粉と卵を混ぜて太く短い麺状にしたものである。

<中略>

 なかでも、シュヴァーベンを代表する料理といえばやはりシュペッツレ。シュペッツレの製法はすでにふれたとおりであるが、要するに、小麦粉と卵からつくった生地を薄くのばし、細く切ってゆであげるということであり、小麦粉と卵からつくった麺状のパスタと定義づけることができる。シュヴァーベンのおふくろの味というべきもので、かつては家ごとに独自の技術が母から娘へと受け継がれていた。とくに、生地を木製の板の上で細く麺状に切り熱湯の中に落とし入れる、そこの技術が難しいらしい。

 このシュペッツレはさまざまな料理の付け合わせにされるが、主役となるような料理もある。代表的なのはチーズ・シュペッツレ。できたてのシュペッツレを鉢に入れ、粉チーズと輪切りのタマネギを炒めたものを上にのせる。オーヴンですこし加熱する場合もある。レバー・シュペッツレは、牛や仔牛のレバーを生地に加えたもの。あとはふつうのシュペッツレと同じような製法で、バターを加えて出来上がり。これらはシンプルだがボリュームがあり、主食として食べられる料理である。

 シュペッツレを材料とする料理としてはまず、レンズ豆とシュペッツレという料理がある。これは、レンズ豆を煮たものに薫製のベーコンやソーセージを加え、さらにシュペッツレと一緒に供するシンプルなもの。またガイスブルガー・マルシュという料理がある。牛肉をジャガイモやニンジン、タマネギなどの野菜と煮込んで、細切りないしサイの目状に小さく切り、それにシュペッツレを加え、スープ用の鉢に入れて供する。これはシュヴァーベン地方を代表するアイントプフ(一鍋料理)で、単純な煮込み料理のようにみえるが、骨からスープだしを取ったり、別にシュペッツレをつくってから肉・野菜の細切りと一緒に添えたりするなど手の込んだご馳走である。

 シュペッツレ以外にも、シュヴァーベンにはさまざまな麺・パスタ類がある。麦粉食品多食地帯である南ドイツの中でも、シュヴァーベンはとくに、先ほどふれたフレードレ、マウルタッシェン、シュプフヌーデルなどのパスタ料理を数多く発達させた地域なのである。まずフレードレは、パンケーキを薄焼きにして細く切った麺状の食品で、材料はシュペッツレとほぼ同じだが、生地にミルクを加える点が違っている。パンケーキの薄焼きを巻いてから一晩冷ましておき、それを細く切るので、渦巻き状の麺となる。これを牛肉のダシからつくったブイヨンに入れてフレードレ・スープにすることが多いが、アスパラガスやジャガイモサラダの付け合わせとすることもある。

『雪の中の三人男』に登場する「牛肉入りうどん」は、ここでいう「ガイスブルガー・マルシュ(シュペッツレ)」あるいは「フードレ・スープ(フレードレ)」だと思うのだがどうだろう?


世界の食文化 (18) ドイツ

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