百合若大臣

 しばらくして、緑丸は どこからみつけてきたのか、大きな柏の葉が 二、三まいついた板をくわえて、かえってきた。

 百合若は 自分の指をかみきり、その血で、柏の葉に 歌を一首かきつけ、ていねいにたたんで 板にしっかりとむすびつけた。

「一刻もはやく、これを 北の方にとどけてくれ。たのんだぞ」

 百合若がいうと、緑丸は板をくわえて 頭上を 二、三かいまわったあと、さっと とびさっていった。

 その三日あと、おやしきにいた北の方は、上空からまいおりてきた 緑丸を みつけた。緑丸は、くわえていた板を ふっと、北の方のまえにおとした。

 北の方が、なにごとかと 板にむすばれた 木の葉をひろげると、血でかかれた歌が一首、しるされていた。なんと、それはまごうことない、百合若の文字!

   とぶ鳥の あとばかりをば たのめきみ

        うわの空なる 国のたよりを

(心もとないたよりだが、このとぶ鳥のあとをたよりにしなさい)

 

指を噛み切って書く文字が普段通りの文字(たぶん、すこぶる達筆)というのにも驚くが、孤島ひとりぼっちの状況でやっと得た外部への通信の機会を「ここで一首」としてしまうのもすごい。物語の主人公はこうでなくっちゃ!と思った。 

百合若大臣 (日本の物語絵本)

百合若大臣 (日本の物語絵本)