黒ん坊

 父親の顔がこの時、雪のまぶたに浮び、萩乃の顔もそれに重なった。もし父親が生きていたならばこの瞬間、何と言うであろう。

 (殿のお気持に添え)

 そう言うだろうか、そう言う筈はないと思った。たとえそう言われたとしても、あの家康の手に抱かれるのは彼女にはどうしても耐えられなかった。それよりも、今まで身寄りのない自分を女中衆に入れてくれた家康の気持が本当は別なところにあったのを知って、彼女は怖し(おそろし)かった。この世のすべてに、本当はいまわしいものが隠されていると、彼女は今はじめて知った。

気付くのが遅すぎ。てゆーか、いつか彼女のクリスチャンとしての特性が色濃く出てくるのかと思ってたのに最後までそういうことはなく残念だったのだが、もしかしたらこの辺りの展開こそが朧にそういう意味合いを含めていた、ということなのだろうか?


黒ん坊 (1971年)

黒ん坊 (1971年)